そうめん

 夏休みのある日。自分の隊のランク戦も無いし、個人ランク戦も十分やって暇になったので何をしようかと思っていたところ、個人ランク戦ブースのロビーでばったり玉狛第二の3人に会った。せっかくなので3人について行き玉狛支部にお邪魔させてもらうことになった。

 玉狛支部の建物に繋がる橋のところまで来ると、小南と栞、レイジさんに陽太郎くんが何やらしているのが見える。声をかけると小南がこちらに気付いて手を振ってくれた。近づくと4人が何をしているのか分かって、は雨取ちゃんと一緒に歓声を上げた。夏の風物詩、流しそうめんだ。

「わー、流しそうめん! いいね!」
「すごい、竹の流し台……!」
「ながしそうめん?」

 空閑くんが首を傾げて言う姿に、そういえば彼はボーダーに入る少し前まで海外に住んでいたのだっけと思い出す。そうか、来たのは冬頃だったから基本的に夏に食べるそうめんは見たことがないのかもしれない。

「この細いのは……うどんか?」

 長い竹の流れ道の上に置いてある、そうめんの入ったざるを指差しての言葉に首を振る。うどんは知ってるんだ。温かいうどんもあるし、冬に食べたのかもしれない。

「これはうどんじゃなくて、そうめんだよ。うどんみたいにモチモチはしてないけど美味しいよ!」

 ふむ、と頷く空閑くんの手に小南がつゆの入ったお椀と箸を持たせた。

「レイジさんが流し台作ってくれたのよ! 皆でやりましょ」

 ちなみにとりまるはバイトで迅はなんかよく分からないけど暗躍中よ、との言葉に思わず笑った。
 迅さんはさておき、レイジさんは本当になんでも出来てすごいなあと感心する。パーフェクトオールラウンダーは戦闘だけでなく家事にDIYも完璧らしい。うきうきと言う小南に頷いて、もお椀と箸を受け取った。爽やかなガラスのお椀の中にはつゆと一緒に薬味も浮かんでいる。美味しそうだ。

「この台の上の方からそうめんが流れてくるから、それを箸でキャッチして食べるの」

 不思議そうに竹の流し台を眺める空閑くんに教えると彼は目を輝かせた。

「それは楽しそうだな!」
「流すぞ」

 レイジさんの声に皆いっせいに箸を構える。すぐに上流から流れてきたそうめんをギャーギャー騒ぎながら取り合った。
 ほどなくして、空閑くんもなんとかそうめんをゲットする。の見守る中、彼は白い麺をつゆに浸し、つるりとすすってもぐもぐと咀嚼した後、笑顔を浮かべた。

「うまいね」
「でしょ! やっぱり流しそうめんはいいねー」

 笑いあうたちの隣では雨取ちゃんが雷神丸に乗った陽太郎くんに自分の取ったそうめんを分けてあげている。(陽太郎くんがあまりにも食べるから後ほど小南にしめられていた)
 しばらくした後にレイジさんに代わって小南が流し役をするも、流す量が多すぎて水が詰まりそうになるのを見て騒いだり、夏バテ気味らしくあまり食べようとしない三雲くんのお椀に空閑くんが自分の取ったそうめんを無理やり入れようとして一悶着起こしたりしながら、その後もお腹いっぱい食べた。ただ食べるのではなくて、皆と取り合ったりして騒ぎながら楽しむのが流しそうめんの醍醐味だ。

「日本には美味いものがいっぱいだな」

 皆でお椀や流し台を片付けた後、満足そうに言う空閑くんに嬉しくなった。誰かと一緒に美味しいものを食べるのは楽しいし嬉しい。

「夏は美味しいものがいっぱいだよ。今度かき氷おごってあげる」
「かきごおり…なんだか涼しくてうまそうな響きですな」

 なんだか美味しいものをいっぱい食べさせてあげたくなってそう言うと、空閑くんはまた目を輝かせた。
 戦闘中はA級顔負けの強さを見せる彼だけど、その外を出ると意外と年相応でかわいい。今年の夏はそんなかわいい後輩と一緒に、色んな事を楽しめたらいいな。