麦わら帽子

 帽子には色々種類があるけれど、一番夏を感じさせる帽子はやっぱり麦わら帽子だと思う。涼しげな麻の素材に、リボンが巻いてあればなお良い。日差しの下で車を洗うお父さんでも、サマーワンピースを着た清楚な女の子でも、虫捕りに夢中な男の子でも皆似合う夏の帽子。久々に会った彼氏のテル君は、そんな帽子をかぶっていた。
 夏休み早々祖父母の家に泊まりに行っていたから、休みが始まってから会うのはこの日が初めて。テルくんは終業式に会った時よりも少し日焼けしているようだった。

「テル君麦わら帽子買ったんだ? 似合うね!」

 確か以前休日にデートした時はキャップをかぶっていた気がしてそう言うと、テル君は帽子のつばを引っ張って笑う。

「この前会った霊幻さんって覚えてる? あの人が買ってくれたんだ」

 もちろん覚えてる。モブ君の師匠らしい、スーツを着た茶髪の人だ。そう言って頷くと、彼は霊幻さんとモブ君、それから律君と過ごした夏の日のことを教えてくれた。虫捕りに海に遊園地。理想的な夏休みの一日。

「初めて夏休みが楽しいって思えたよ」

 なんでもできる様に見えて実は不器用な部分も持っているテル君は、あまり友達が多くない。そんな彼が楽しく過ごせたという事実はとても喜ばしくて、聞いていてまで嬉しくなった。一度会ったことがあるだけだけれど、霊幻さんはすごく良い人なんだな。

も夏休みはテル君といっぱい遊びたい!」
「もちろん」

 嬉しそうなテル君の笑顔が眩しくて、も一緒に笑う。海も遊園地も、花火大会なんかも一緒に行けたらいい。とりあえず、も4人とお揃いの麦わら帽子が欲しいな。