キャンプ

 モブ君は先週家族とキャンプに行ってきたらしい。仲良し家族で素敵だなあ、と思いながらこの頃よく感情を出すようになった彼の話を聞いた。川釣りにたき火にテント、とっても楽しんできたみたいだ。

「キャンプかぁ……」

 モブ君が帰り霊幻さんが相談所を閉め、芹沢さんと途中まで一緒に帰る道、思わず独り言を口にした。キャンプ、いいなあ。夏のロマンが詰まっている。小さくこぼした呟きに隣を歩く芹沢さんがこちらを向く。

「キャンプ好きなんですか?」
「せいぜい中高生の時に林間学校があったくらいですけどね」

 中学では飯盒炊爨をする程度だったけれど、高校でのそれは各自で材料を持参して夕食を調理し(ちなみに釣りも許されていたので魚を食べていた班もあった)、夜を過ごすのも宿泊施設ではなくきちんと自分達で張ったテントの中でという中々本格的な行事だった。思い出すだけで懐かしい。芹沢さんはどうだろう。

「芹沢さんもやっぱりやりました? 学校で……」

 そこまで言ってはっと口を抑えた。馬鹿かは。芹沢さんは中学校にも高校にも行っていないのだ。

「しょ、小学生の時に林間学校とかありませんでした?」

 慌てて言い直すと彼は苦笑して口を開いた。

「俺のところはなかったですね。中学に行ったらあったのかもしれないですけど」

 あはは、と付け足される気まずそうな笑いに罪悪感が募る。なんという失言をしてしまったのだは。

「あっ、じゃあ今度一緒にキャンプ行きません!?」

 どうにか雰囲気を変えようと半分パニックになりながら頭に浮かんだ案を口に出すと芹沢さんは驚いたように瞬きをした。

「一緒にですか?」
「はい! きっと楽しいですよ」

 言っている内に段々自分でもその気になってくる。は学校での林間学校しか経験がない上に芹沢さんに至ってはそれすらやったことがないけれど、今のご時世ネットに情報が溢れている。もちろん本も売っている。きちんと下調べをすれば、ちゃんとキャンプができるはずだ。考えれば考えるほど楽しくなってきた。

「夜は星が綺麗ですし、テントで寝るのも中々悪くないんですよ」
「星かあ……テントも楽しそうで、ってちょっと待ってください泊まりですか!?」
「え? キャンプですしそりゃあ泊ま……」

 そこまで言ってはたと言葉を止めた。泊まり。男と女二人。同じテントで寝泊まりをする。自分から男性へ、そんなことをしようと誘った。今更ながら自分が何を言っていたのかに気付き、一気に顔が熱くなった。

「ち、違うんです! ただ、キャンプは楽しいってことを知ってほしかっただけで……!」
「だ、大丈夫です分かってます! 気付かなかったんですよね!」

 半泣きで弁解すると同じくらい顔を赤くして、芹沢さんはぶんぶんと頭を振り頷いた。よかった。芹沢さんに軽い女だなんて思われたら死ぬしかない。

「変なこと言ってごめんなさい……」
「いや、元はと言えば俺のせいなので」

 謝りあいつつ歩くうち、気付いたらは家に、芹沢さんは夜間学校へと向かう分かれ道まで来ていた。気まずくはなくなったものの恥ずかしくなっていたため、ほっとして頭を下げる。

「じゃあ、また明日。お勉強頑張ってください」
「はい。あの、」

 背を向けようとしたところに声をかけられて振り返った。街灯に照らされる芹沢さんの顔はまだ少し赤い。

「キャンプに誘ってくれたのはすごく嬉しかったです。よかったら、こ、今度日帰りでどこか一緒に行けたら……」

 尻すぼみの言葉をぽかんとしながら聞く。

「……デートですか?」
「もし、よかったらですけど」

 2人でキャンプに行く日も遠くないかもしれない。