山
本部を歩いていたら狙撃手訓練エリアから出てくる狙撃手2位の後輩を見かけた。
「奈良坂くん!」
廊下からの呼びかけに奈良坂くんはキョロキョロと周りを見回してから
に気づき、こちらに来た。少し嬉しそうなのがかわいい。おはようございます、と律儀に挨拶してくれるのに笑って答えた。
「おはよ! 奈良坂くんってチョコ菓子好きだったよね?」
「はい」
こくりと頷いての返事に安堵する。前に好物の話をした時の記憶はどうやら間違っていなかったようだ。良かったと思いつつ持っていたバッグのファスナーを開けて、その中から小さめの箱を取り出し後ろ手に隠した。
「ちょっと手出して」
素直に右手を差し出す奈良坂くんの掌の上に箱を置く。手からはみ出すサイズのそれを見て、彼は驚いたように瞬きをした。
「これは……」
「今日山の日でしょ。だからきのこの山持ってきて甘いもの好きな人たちに渡してるの」
そう、奈良坂くんにあげたのは大人気チョコ菓子、きのこの山だ。去年から始まった祝日にちなんでいるということを説明する
に、奈良坂くんは手の上の箱のパッケージに写るきのこたちを無言で見つめた。マッシュルームヘアの彼がじっときのこを見る様はさながら親が子を見るようで中々面白い。こんなことを実際口に出したらアイビスで撃ち抜かれそうなので心の中だけに留めておいたけど。
箱をじっと見つめる彼はチョコ菓子が好きなはずなのに、なかなか箱を開けようとしない。心配になって声をかけた。
「あれ、きのこの山嫌い?」
「……嫌い、ではないですけど……」
少し迷ったように視線を彷徨わせてから、奈良坂くんはようやく
と目を合わせた。
「……俺はたけのこ派で」
「あれ、そうなの!」
予想だにしなかった事実に目を丸くする。まさかたけのこ派とは。外見のイメージから勝手にきのこ派かと思っていた。失礼だから言わないけど。
「
先輩はきのこ派なんですか?」
「
はどっちも好きだよ! どっちも美味しいからね」
きのこもたけのこも美味しいことに変わりはない。どちらかをより好きな人がいるのも分かるけど、
はどっちをもらっても嬉しい。そう言うと奈良坂くんはしみじみと「皆先輩くらい博愛的だったら平和になりますね」とよく分からない返事をくれた。
「でもそっかー、たけのこ派ならきのこもらっても嬉しくないよね~。ごめんね」
いらないかな?と聞くと慌てたように首を振られる。
「いや、ありがたく受け取っておきます。せっかく
先輩がくれたものなので」
「そう?」
ただのお菓子なのにそんなにありがたいのだろうか、と首をかしげた。でも
にもらったから、なんて可愛いことを言ってくれる後輩だ。今度機会があったらたけのこの里をあげようかな。そんなことを思っていたら奈良坂くんは薄く笑って頷いた。
「はい。でもバレンタインの時はたけのこに近いチョコ菓子を本命としていただけると嬉しいです。クッキー系の」
「うん! ……うん?」
何か今、しれっとものすごく重大なことを言われた気がしたんだけど。