花火

 花火は海水浴と並んで夏の二大風物詩だと思う。友達とやる気軽な手持ちの花火も楽しいけれど、今回たち18歳組がやって来たのは打ち上げ花火の大会だった。今日の花火大会は三門市で行われるものの中でも特に大きくて、毎年大勢の人が訪れる。もっとも、たちが花火を見ようと集まった場所はほとんど人のいない所だったけれど。
 同期皆で花火大会に行かないかという案は前から上がっていたんだけれど、カゲはサイドエフェクトのせいで人が多く集まる場所に行くことが行くことが嫌いだ。どうしたものかと皆で悩んでいたところで、そういえば自分の家の近くに穴場があったことをが思い出したのだった。

「いいとこ知ってたね~」
「去年家から花火見てた時に気付いたんだ」

 ぽつぽつとしか人のいない河原を道路から見下ろして柚宇が感心したように言うのに胸を張った。

「前に高い建物も無いしよく見えそうだ」

 蔵内の言葉に皆で川の向こう、遠い空を見上げる。ここ一帯は住宅街な上に一軒家ばかりだから蔵内の言う通り見通しが良い。最初にこの場所を思いついた時はそこまで考えていなかったけれど、もしかして相当良いスポットを選んだのではないだろうか。グッジョブ

「すげー射線通りそうだな」

 当真が辺りを見回して言うのに荒船と穂刈が頷く。射撃手らしい着眼点に思わず笑った。
 打ち上げ場所の方角の空はまだ暗い。花火が始まるまではもう少し時間がある。女子勢で持ってきたレジャーシートを引いて河原の上のなだらかな坂に座ると、犬飼が機嫌良さそうに笑って口を開いた。

「にしてもやっぱり良いね、女の子の浴衣は。華やかで」

 相変わらず褒めるのが上手いな~なんて思いながらも悪い気分はしなくて、女子皆で目を合わせて笑った。今日はを含む女子全員(柚宇、結花、摩子、倫)が浴衣で着ている。皆でお互いに合いそうな色や柄のものを考えるのが楽しくて、はしゃぎながらショッピングをしたのはつい先日の話だ。ちなみに今日は一番近いの家に皆で集まって着付けをした。
 対する男子勢は犬飼に王子、それから水上が浴衣で他は普段着だ。なんとなく着てきそうだな~と思わせる面子が予想通り着てきている。甚平を着てくるんじゃないかと思ったけど、男子の浴衣もなかなか風流で格好いい。欲を言えば皆似合いそうだから着てほしかったところだけれど。蔵内や当真、穂刈なんかは背丈もあるからかっこよく着こなしそうだ。

「犬飼も似合ってるじゃん。色男」
「あはは、ありがと」
「おい、調子乗らせんな」

 隣に座って軽くを小突くカゲも普段着だ。カゲも浴衣がよく似合いそうだけど、性格的には着てくれそうもない。もし今度2人でお祭りにでも行きたいと言ったら着てくれるだろうか。しかめっ面にそれとなく念を送ったけど「何考えてんだ」とだけの返事が返ってきた。流石に分からないか。

「カゲ嫉妬?」
「ちげーよボケ!」

 とは反対側のカゲの隣に座るゾエが笑ってちょっかいを入れると間髪入れずお腹に鋭いパンチが決められる。痛い!と悲鳴を上げるのに皆が笑い声をあげた。


「そろそろ始まるぞ」

 腕時計を確認しての村上の言葉に遠くの空を見上げるのと同時に、ヒュルルルという音が響いた。白い閃光が空へと向かい、一拍置いて大輪の花を咲かせる。周りから歓声が上がった。花火大会が始まったのだ。
 様々な色と形に変化する星が次々と真っ暗な空を彩る。見惚れてしまうほどに綺麗だ。少しの間皆ほとんど話もせずにただ空を見上げていた。

「……ありがとな」

 ふいに隣から聞こえた呟きに目を見張った。花火の音にかき消されそうなくらいの小さな声は恐らくにしか聞こえていない。横を向くと、カゲは少しだけ顔をこちらに向けてを見ていた。

「ここは俺ら以外にほとんど誰もいないからうるさくねえ」

 助かる、とぼそぼそ言われて嬉しくなった。あまり人好きではないカゲが何かを楽しんでくれるのが、一番嬉しい。

「来年も一緒に来れたらいいね」
「……ん」

 こくりと癖毛の頭が頷くのが愛しい。空を見上げる皆に気付かれないように、そっと手を繋いだ。