部活終わり、洗い終わったばかりの洗濯物の入ったカゴを持って部室へと向かっていたら、ふと日が短くなったことに思い至った。まだ7時前なのにもう夕暮れは過ぎ、ほとんど夜という方が相応しい色に変わっている。

「どうした」

 空を見上げていたら後ろから声をかけられた。振り向くと見慣れた金髪頭がこちらを見ている。福富だ。外での走りを終えてきたんだろう。隣に並んだ背の高い彼は首にかけたタオルで顔をぬぐってからの隣に並んだ。

「結構日が短くなったと思って」
「もう8月も半ばだからな。夏至から2ヵ月近く経っている」
「あー、もうそんなか」

 夏至から2ヵ月というと、今の日の長さは4月下旬と変わらないということになる。まだまだ夏の気がしていたのだけれど、もう秋分の方が近い事に気付いて驚いた。見上げた空には星が輝き始めている。

「なんだかいつもより星が見える気しない?」

 ここ最近の空より星の光が強い気がして、そう隣に話を振った。夏は湿気があるし温度が高いからあまり星は綺麗に見えないのだけれど、今日はカラッとした天気だからかよく見える気がする。にならって夜空を見上げた福富はしばらく無言で星を眺めた後、顔を下ろした。

「確かに見える気がするな」
「でしょ! 流れ星見えないかな~」
「何か願い事でもあるのか」

 軽く口にしただけだったのだけれど、真顔で問われて思わず考え込んだ。言われてみれば特に無い気がする。

「んー……無いんだけど……でも見れたら嬉しくならない? レアな感じして」
「分からないでもないが」
「でしょ」

 田舎や山奥でならともかく、ここら辺で流れ星を見ることはあまりない。というか、あまりも何もよく考えたらそもそもは流れ星を見たことがない気がする。考えれば考えるほど俄然見たい気分が高まってきた。そう言うと福富はほんの少し眉を緩めて「単純だな」と返した。自分でもそう思う。

「福富は何かある? 願い事」
「……特に思いつかないな」
「だと思った」

 真面目な横顔に苦笑した。いつだって自分で努力して、自分で望んだものをつかみ取る福富の事だ。星にかける願いなんて無いだろう。自転車に関することはもちろん、勉強も健康も。福富ほどは強くなれないけれど、も少しぐらいはその真面目さを見習いたいものだ。

「まあとりあえずも願い事は保留だな~」
「思いついたら教えろ。俺は特に願うことがないからお前の願いを願っておく」
「…………」

 目を閉じて空を仰いだ。付き合い始めてから時々こういうことを仏頂面で言ってくるのが本当にズルいと思う。甘くさえ聞こえる言葉なのに他意なんて無いのが余計に腹立たしい。本人は甘い台詞を吐いている自覚さえないのだ。

「おい、何をする」

 なんだか無性に腹が立ったから脇腹に肘を打ち込んでおいた。