夏祭り

 今日は三門市で行われる大きな夏祭りの日だ。神輿の練り歩きは昼過ぎから始まっていて、出店などが混むのは夕方から。は日が暮れる少し前に神輿が通る参道へと来ていた。1人でいるのには理由がある。彼氏である穂刈が、お神輿を担ぐどころかその上に乗るほどのお祭り大好き男だったからだ。最初に聞いた時は神輿って神様が乗っているものなのに人が乗っていいの?と思ったのだけれど、今回のお祭りの神輿は伝統的に人が乗っているものらしい。でも飛び入りで来た客が勢いで登ったりするのではなく、乗る人はその前にきちんと儀式を行い、体を禊ぐのだとか。丁寧に教えてくれた穂刈に、本当にお祭り大好きなんだなあ……思ったのを覚えている。
 一緒にお祭りを回る穂刈が神輿にいるため、合流は穂刈の乗る神輿の宮入が終わってから。それまでは1人で様々な神輿が参道を練り歩くのを眺めることとなる。どの神輿も立派で、元気な掛け声が耳に楽しいから寂しいということはない。ただあまりにも人が多いから、気をつけないと流されてしまいそうだ。担ぎ手には男の人だけでなく女の人もかなりいてびっくりする。そこまで気にしたことはなかったけれど、お祭りって元気で楽しくていいなあ。しみじみとそんなことを思いながら練り歩きを眺めていたら、近づいてきた豪華な神輿の上に乗っているのが見慣れた男で息を呑んだ。法被を着た穂刈だ。真剣だけれど楽しそうな顔で大きく掛け声を叫んでいる。迫力と格好良さに思わず言葉を失ってしまう。少しの間ぽかんとして通り過ぎる神輿を見つめた後、我に返って慌ててその後ろを追いかけた。宮入までついて行こう。

 神社に近づくにつれてどんどん見物客が増えていく。掛け声も更に大きくなっていく。なんとかついてきた穂刈の乗った神輿は神社に入ると、無事境内へと入って宮入を終えた。神輿ってすごい。大迫力の宮入に圧倒されて、少し宙に浮いているような気分でそう思う。よく知っている人がその渦中にいたというのも相まって、なんだか感動してしまった。

「着付けんのに時間かかった、悪い」
「わ、わー!」
「どうした」

 宮入からしばらくした後。待ち合わせ場所である神社の入り口にいたの肩を叩いた穂刈は、先程まで着ていた法被から浴衣に着替えていた。黒地に縦縞が入ったシンプルな浴衣に渋いえんじ色の帯がとても良く似合っている。神輿の上にいた時もとても男らしくて惚れ惚れしてしまったけど、これはこれで非常に風情がある。上背があると何を着ても様になるなあ。

「か、かっこいい……」

 変に胸元を開けたりせずきっちりと着こんでいるのが逆に色っぽい気がする。走ってきたからか、少し汗をかいた額も眩しい。いつも倒置法で変なことを言っているから忘れがちだけど、の彼氏はかっこいい。当たり前のことを改めて思い知らされてじわじわと赤くなるのを自覚しながら呟くと、穂刈はにやりと笑った。

「惚れ直したか?」
「うん……」

 さっきの神輿の上での法被も、今の浴衣姿も本当に素敵だ。素直に頷くと眠たげな眼が少し驚いたように見開かれる。

「……悪いな、心臓に」

 さっきまでの余裕はどこへやら、穂刈まで照れたように頬を赤くするから二人で少しの間黙って突っ立っていた。後で神輿の時もかっこよかったと伝えられると良いんだけど。