スイカ

 B級の作戦室が並ぶフロア。その中の一つの前に立ちタッチパネルを押してチャイムを鳴らすと自動ドアが滑らかに開き、扉の向こうに立っていた柿崎が快活に手を上げた。

「よお。急に作戦室来るなんて言うから何かと思ったぞ」
「やっほー。お邪魔します」

 どうぞ、と手で示してくれたので遠慮なく踏み入った柿崎隊の作戦室には全員が揃っていた。入ってきたに寄ってきて口々に挨拶してくれる真登華ちゃん、文香ちゃん、虎太郎くんに笑いかける。柿崎は作戦室にいないことが多いので、やっぱり事前に連絡しておいて良かった。

「実はね、柿崎隊の皆にプレゼントです」
「プレゼントですか?」
「うん!」

 真登華ちゃんが首を傾げるのに手に持った紙袋を掲げると、彼女の隣にいた虎太郎君が期待に満ちた目を向けた。かわいい。そしてその輝く眼差しは、が袋から透明な大きいタッパーを出すと歓声に変わった。

「スイカだ……!」
「そう! スイカです!」

 昨日実家から立派なスイカを丸ごと送ってもらったのだ。嬉しいけれど、腐る前に1人で食べ切るのはかなり難しい。自分の隊の皆にある程度おすそ分けした後、そういえば柿崎と虎太郎くんの好物がスイカなことを思い出した。確か文香ちゃんと真登華ちゃんも甘いものが嫌いではないはずだし、ちょうどいいだろうと思って持ってきたのだった。

「どうせならスイカ好きな人に食べてもらいたくて。柿崎隊におすそ分けしようと思ったの」

 少し資料の散らばったテーブルをすかさず文香ちゃんが片付けてくれるのにお礼を言って、大きな容器をテーブルの上に置く。タッパーの蓋を開けると瑞々しく輝く赤い果実がお目見えした。たくさんの保冷剤で周りを冷やして持ってきたおかげでよく冷えている。

「おー、うまそうだな!」
「昨日ちょっと食べたんだけど、すっごく甘いよ」

 スイカは色が赤くても実際に食べると水っぽくてあまり美味しくない場合があるけれど、これはとっても甘くて美味しかった。当たりというやつだろう。紙袋からスイカと一緒に持ってきた紙皿とフォークを取り出し、それぞれにスイカを盛って皆に手渡した。

「甘い!」
「瑞々しい~」
「美味しいです……!」
「良かった!」

 スイカを口にした3人が声を上げるのにほっとする。上から文香ちゃん、真登華ちゃん、虎太郎くんの感想だ。3人に続いてスイカを咀嚼した柿崎も「うまい」と声をあげた。持ってきた分もちゃんと美味しかったみたいだ。よかった。

「ありがとな」
「ううん」

 爽やかな笑顔を向けられて、少し照れながらも笑い返す。同期だと嵐山が注目されがちだけど、柿崎も同じくらいかっこいいとは思っている。惚れた贔屓目もあるのかもしれないけれど。

「一緒に食べていけよ」
「まだ家に残りがあるし大丈夫! 4人分しかフォークとお皿持ってきてないし」
「俺の使えばいいだろ」

 ほら、と差し出されたフォークに思わず固まった。三つ又の先にはスイカが刺さっている。これはもしかして柿崎の手ずから食べろということだろうか。柿崎の後ろにいる3人がニヤニヤしながらこちらを見るのに赤くなった。二人きりの時ならともかく後輩たちに見られながらあーんは難易度が高すぎる。

「あの、柿崎……他にも人がいるので……」
「ん? あ!」

 ナチュラルに失念していたらしい。柿崎はさっと顔を赤くして急いでフォークの向きを変え、持ち手をの方に向けた。

「……ありがと」

 男らしい手からフォークを受け取って刺さるスイカを頬張る。甘くて美味しいはずなのに、恥ずかしくてろくに味が分からなかった。