ビアガーデン

 まだまだ残暑の続く8月終わり。あと数日で休みの終わってしまう中高生組は夏の終わりを嘆いているけれど、達大学生組はあともう1ヵ月ほど休みが続く。高校の頃と違って宿題も出ないから、存分に休みを謳歌していた。
 今日は夕方から諏訪、レイジ、風間、雷蔵らの同期とビアガーデンに来ている。隣に座る諏訪は大好きなビールだけでなく肉(バイキング形式だからそこまで上等なものではないけれど)がある上に喫煙席だから煙草も吸えてかなりご機嫌だ。先程また席を立って満たしたビールジョッキは早くも半分になりかけている。

「あー、ここもいいけど本部の屋上でビアガーデンやってくれりゃいいのにな」
「流石に無理でしょ」

 もう4杯目のジョッキを勢いよくあおってからの言葉に苦笑した。任務終わりにそのままボーダー本部で飲めたりしたら最高だろうから、気持ちは分かるけど。ボーダー本部の屋上自体には特に何も置いていないけれど、4つの角には迎撃用の砲台が配置してある。もし楽しんでいる最中に近界民が襲撃してきて砲台が発射されたりしたらその衝撃で全てのビール瓶とジョッキが倒れ大変な惨事になるだろう。それに基地自体が真ん中に四角い空洞のある形をしているから宴会を楽しむに最適な場所とは言い難い。そして何より、そもそもボーダー自体が大半の隊員が未成年の組織だからあまり堂々とアルコール類を置くのも良くないはずだ。色々な理由が相まって実現しそうもない。

「分かってっけどよ。惜しいな」
「そんなもの必要ないだろう」

 仏頂面でと諏訪の会話を一刀両断した風間の眉は険しくしかめられている。諏訪がニヤニヤと笑った。この前酔った風間をけしかけてポストとタイマンを張らせたことを思い出したんだろう。あの時の風間は本当に傑作だった。本人の記憶は残ってないようだったけれどや諏訪から散々からかわれて腹が立ったのか、今日は最初に「俺は今日は飲まないぞ」と宣言してからやって来たのだった。それでも参加しないのではなく、一応一緒に来てくれるのが風間の良いところなんだけど。ちなみに手元のジョッキには牛乳がなみなみと注がれている。まさかビアガーデンに牛乳があるとは思わなかったから最初に見た時には諏訪と一緒に爆笑した。絶対子連れで来た家族用の物だと思う。明らかに21歳男性用の牛乳ではない。

「ちょっとついでくる」
「まだ飲むのか」

 話している内に空になったジョッキを持って立ち上がるとレイジがうんざりとした顔で呻いた。風間ほどではないけれど、レイジもそこまでお酒は強くない。と諏訪、それから雷蔵ばかりが何度もジョッキを持って席とサーバーを往復していた。

「雷蔵も空じゃん。ついでこようか?」
「ありがと。今度はコーラでよろしく」
「了解」

 雷蔵はお酒も飲むけれど、本当はコーラの方が好きだ。ハイペースで飲むより間にソフトドリンクを挟む方が賢明だと思ったのだろう。昔より大分ふくよかな感じになった手からジョッキを受け取る間に諏訪がまた勢いよく自分のビールをあおった。そんなに急がなくても、と思うもみるみるうちに黄金色の液体は泡と共に姿を消していく。

「俺も行く」
「え、諏訪のも一緒についでくるよ」

 あっという間に中身を空にして立ち上がるのにその手からジョッキを受け取ろうとすると首を振られた。

「3つもジョッキ持てねーだろ」

 確かにこのジョッキの持ち手は少し太めだけど、頑張れば片手に2つくらい持てないでもないのでは……?それにに合わせてそんなに早く飲まなくたっていつでもサーバーには行けるのに。首を傾げつつも「行くぞ」と何も持っていない方の手で背中を叩かれて足を進めた。並んでドリンクの方へと向かう背後、残った3人が諏訪を見てニヤニヤと笑っている理由をだけが知らずにいる。