ひまわり

 今年の夏は暑かった。過去形にしてしまうほどに、気付くと秋が近づいている。熱気はまだ強く残っているのに日はかなり短くなって、蝉の鳴き声が全盛期より少し大人しい。
 けれど、何より夏の終わりを感じるのはこれが高校最後の夏休みだからだろう。全力を出し尽くしたインターハイからほぼ1ヵ月が経っていた。

「もう来週から2学期かぁ」

 正直なところ、ほとんど毎日部活があったから学校から離れていたという感じはあまりない。それでもやはり授業のある時と夏休みでは少し感覚が違う。また来週から、日常が戻ってくるのだ。惜しむように呟くと、隣を歩く福富は「そうだな」と簡潔に返事をよこした。
 珍しく部活が休みの今日、東堂の提案で3年レギュラーの4人にマネージャーのの5人で神奈川県内のひまわり畑に訪れていた。多分これが夏休み中最後の遠出になるだろう。この公園のひまわりはちょうど今の時期が見頃らしく、どれも立派に咲き誇っての肩口くらいの高さまで元気に育っている。少し前まで5人で固まって歩いていたのだが、いつの間にか3人が遠く先まで進んでしまったので福富と二人きり並んで歩いていた。
 上を見上げると真っ青な空と白い雲が目に映る。太陽の光が目の奥まで侵食してきそうだ。景色はどこまでも夏らしいのに、8月の終わりの日だという気持ちが強いからか心なしか寂しく感じてしまう。揃って同じ方向を向く黄色い花たちは華やかなのにどこか幻想的で、花々の中の細い通り道を歩くうちにどこか宙に浮いたような不思議な気分になる。

「ひまわり畑なんて初めて来たんだけどすごく綺麗だね」
「ああ」

 相槌を求めて横を見ると、福富もどこまでも続く黄色と緑の絨毯を見回して頷いてくれた。見上げる横顔の奥にも、遠くまでひまわり畑が続いている。花々を背景にする姿がひどく絵になる気がして、思わず見惚れた。

「……福富ってひまわり似合うね」
「どういう意味だ」

 衝動的に口にした唐突な言葉にこちらを見る福富の眉はほんの少しだけ寄せられている。不可解そうな様子におかしくなった。我ながら唐突だと思ったけれど、ふいにそう思ったのだ。福富のようにどこまでも男らしい人に花などと、なんて思うかもしれないが、こうしてひまわり畑の中を一緒に歩いていると意外なほどしっくりくるように感じた。
 自分の決めた道を突き進む姿はひたむきに太陽を見る花によく似ている。けれど同時に、周りの人間を照らすような福富自身が太陽のようでもあって。それならば、飽きもせずに彼の方ばかりを見てしまうがひまわりということになるのだろうか。

 あなただけを見つめる。それが、ひまわりの花言葉だ。強すぎるくらいにひた向きなその言葉を、も口にできる時は来るだろうか。口にしたら、福富はそれに応えてくれるだろうか。

「いや、黄色がよく似合うなって」
「……髪の色のせいか?」
「あはは、そうかもしれない」

 来年のひまわりが咲く季節までに、この想いを告げることができますように。