1. 映画
「なんかさあ、冬って恋愛映画が多くなる気がしない?」
簡単な除霊任務の帰り、映画館の前を通ってふと思ったことを言うと隣を歩く虎杖は何度か瞬きした。なんとなく、同じタイミングで二人立ち止まる。
ツンツン頭が見上げた劇場の壁には男女二人が幸せそうに抱き合う姿がある。そのポスターをじっと見つめて、その後虎杖はまたこちらを向いた。
「考えたことなかったわ……俺あんま劇場まで観に行かないからな~。公開季節気にしたことなかった」
「あー、DVDとか借りて見る感じ?」
「そうそう」
二人して顔だけ横に向けていたのを、映画館の正面へと身体ごと向き直る。ポスターの並びはロマンス・ロマンス・アクション・ホラー・ロマンス・コメディ、そんな感じ。虎杖は
と同じようにカラフルな宣伝を端から端まで見て、顎に手を当てた。
「確かにそうかも……けど、なんでなんだろな?」
「やっぱり寒いとこう、人とくっついて温まりたくなるから……?」
「なる……ほど……?」
分かんないけど。
も突発的に思っただけだから、答えは知らない。
納得がいったようないかないような表情をした虎杖と顔を見合わせて、また一緒に映画館に向き直る。
「……なんか話してたら映画観たくなってきた」
「分かる」
少しの間無言で考えていたらぽつりと虎杖がこぼした言葉に大きく頷く。大きいスクリーンで、大音量で映画が見たい。腕時計を確認すると、まだ17時前だった。2時間の映画でも、夕飯の時間にはなんとか間に合うくらいだ。これはますます観たくなってきた。
「でも恋愛映画だと、ちょっと友達とは観に行きにくいっていうか、誘いにくいよね。話題にしといてアレだけど」
「そう?」
「んー、なんていうか……男友達にアクション映画見ようって誘われたら全然行くけど、恋愛映画に誘われたらちょっと『どういう意味で誘ってくれてるんだろう…』とか考えちゃう」
同性ならまだいいけど、異性だと特に。普段一緒に映画を観に行く仲だとしても、何かソワソワしてしまいそうだ。
ま、残念ながら呪術師なんて一般の高校生からかけ離れたことをしてる身では誘ってくれる男子もいないんだけど。心の中でそんなことを呟いて乾いた笑いを浮かべる。
それは置いておいて、今上映してる中でもアクション映画が結構面白そうだ。虎杖もアクション好きだったはずだし、どうかな。
聞いてみようと隣を見ると、虎杖はなんだか少しだけ緊張した顔で
を見ていた。目が合うとぎこちなく顔を逸らして、小さく息を吸う。どうしたのかと思う間もなく、制服に包まれた腕がすい、と前に伸びた。
「じゃあ、これ見ようよ」
指差されたポスターは、一番最初に目に留まった抱き合う二人のものだった。ぽかんとして幸せそうな二人と虎杖を交互に見る。
「へ、」
「どういう意味か2時間で考えて」
今さっきこんなことを
が言って、それを聞いて恋愛映画を観ようと誘うって。一拍置いて理解すると同時に一気に顔に熱が上ってめまぐるしく思考が巡る。それって、つまり。
いや、映画は集中して観たいんだけど、虎杖だってそうじゃないの。こんなの、内容に集中できるわけないじゃん。主役の二人より、虎杖と
の事を考えちゃうでしょ。
言い訳にもならないことを少しだけ恨みがましく思いながら、結局何も言えずに頷いた。