02. 毛布

 いつの間にか、荘園の自室のベッドに毛布が設置されていた。今までは薄い掛け布団のみだったけれど、冬が来たからだろう。段々と寒さが深まってきていたし嬉しいと思ったところではたと気づいた。
 恋人にくっつく上手い理由が無くなる。

 元々は甘え上手ではなくて、付き合って少し経つノートンに素直に一緒に夜を過ごしたいと言えず「一人だと寒いから」と理由をつけて毎晩彼の部屋に行っていた。ノートンは筋肉があるから体温が高いのだ。彼は優しいから「抱き枕代わり」なんて言い張って毎晩部屋にお邪魔するに何も言うことなく、抱き締めて眠ってくれる。それが嬉しくて、あんまり部屋に遊びに行くことができなかった夏より冬の方が好きだなんて思っていた。寒さ自体は苦手だけど。
 でも、今日からは毛布がある。暖かい毛布が。そして、年が明ければ羽毛布団なんかも支給されるかもしれない。そうしたらますます寒いから一緒に寝てほしいなんて言い訳は通らなくなる。
 そんなことを悶々と考えているうちに大体いつもノートンの部屋に向かう時間はとっくに過ぎて、もうすぐ日付が変わりそうになっていた。
 とりあえず今日は諦めて寝よう。こんな時間に訪ねて行っても、迷惑だろうし。ため息をついて、ちょっと泣きたいような気持になりながらそう決めたところで控えめなノック音が部屋の入口から聞こえた。こんな時間に誰だろう。女の子の誰かだろうか。少し不審に思いながらドアの方へと向かった。

「誰?」
「遅くにごめん、俺だよ」

 今一番聞きたかった声で返事が返ってきて、心臓が一段階段を踏み外したように飛び跳ねる。急いで鍵を開けてドアを開くと、寝間着姿のノートンが立っていた。

「ノー、トン……」
「こんばんは」

 来てくれたのが嬉しいけれど、変に緊張してしまう。名前を呼んだ後は何も言えなくて、部屋の入口で立ち尽くしながら寝間着の裾を引っ張った。なんで来てくれたんだろう。なんの用かな。
 黙ったままのをノートンは穏やかな目で見つめた。

「なんだか、寒くて」

 そう言って、少しはにかんだように笑う。

「毛布が部屋にあったけど、あんまり厚くないんだ。一緒に寝てもいい?」
「……」

 向けられる視線があんまりにも優しくて、訳もなく泣きそうになる。じわりと喉が熱くなるのをやり過ごして、ぎこちなく頷いた。

「いい、よ」
「ありがとう」

 穏やかに笑う恋人を迎え入れて部屋の扉を閉じると、ぎゅうと抱きしめられた。布越しの体温はじんわりと温かい。

「これから毎晩来てもいい?」
「寒いから?」
「それもあるけど、会いたいから」
「……ノートンが来たいなら、いいよ」
「ありがとう」

 本当は嬉しくてたまらないのに、かわいげの欠片もない言葉ばかりが口をつく。それでもノートンは低い声に笑いを滲ませて言う必要の無いお礼まで言ってくれるから、どこまでも甘やかされているなぁと実感してしまう。
 肩口に顔をうずめると、大きな手が優しく頭を撫でた。

 明日の朝には、もう少し素直に一緒に居たいって言えたらいいな。