09. マスク

「おまたせ~」
「うわっ不審者」

 デートの待ち合わせ場所に現れた男はマスクにサングラスという“怪しい人像”を具現化したかのような姿をしていた。振り返って仰け反ったに不審者もとい悟はむっとした顔をした。(といってもほとんど顔は見えないので雰囲気からの想像だ)

「久々に会う麗しい彼氏に対してオマエって奴は……」
「ごめんごめん」

 確かに言葉が悪かったかもしれないけどあまりにも胡散臭い。サングラスをしているのはいつもの事だけど、マスクと合わせるとここまで怪しく危険に見えるとは、と妙にしみじみ思う。特殊な事情で目を隠しているのは百も承知ながら急にこんな相貌の男に声をかけられたら驚くのは分かってほしい。
 そんな悟がぐちぐちと呟く声はいつもより掠れていた。心なしか少し鼻声な気もする。

「何、風邪?」
「そ。移さないようにってマスクしてきたのに不審者呼ばわりとはね」
「だってグラサンにマスクって」

 はあ、とわざとらしい溜息をついての失言を繰り返す姿に弁明する。2m近い、白髪の、顔をほぼ全部隠した男。完全に不審者以外の何者でもない。けれど今世最強の呪術師は強かった。

「イケメン俳優のお忍びデートって感じでしょ」

 特にカッコつけることもなく当たり前のように返ってきた言葉にさっきとは違う理由で一歩引く。うわ、と思わず声が出た。

「どこから来るのその自信は……ナルシストが服着て歩いてる……」
「ナルシストが服着なかったらただの変態だろ」

 長い人差し指が軽くの額をつつく。馬鹿みたいなやりとりをしててもその低い声はやっぱりいつもよりガサガサしてて、ちょっとだけ申し訳なくなった。

「でも言ってくれたらデート中止するか家デートにしたのに。ごめん」

久々のデートは嬉しくても体調が悪い中連れまわすのは忍びない。謝ると悟はマスクの向こうで優しく笑った、ように見えた。

「ずっとここのイルミネーション見たがってたじゃん。僕も会いたかったし」
「……ありがと」

 当たり前みたいな言い方で一番嬉しいことを言ってくれるところが好きだ。

 ほら、と差し出された手を握って光が溢れる道を歩き出す。背がデカいわ顔は隠してるわですれ違う人が時々悟を振り返るのになんだかおかしい気分になる。気づかれないように少しだけ笑った。
 いいでしょう。この不審者、の彼氏なんですよ。