16. こたつ

 冬のオアシス、四角い安寧。決して放してくれないぬるま湯のような怪物。冬の間、確実に人間を堕落させる、危ない存在。こたつというものを発明した人はよっぽど寒がりだったのかよっぽど怠惰だったのか、果たしてどちらなのだろう。どちらにせよ、とはきっと気が合うはずだ。冬になると根が生えてしまうと言ってもいいくらいに、はずっとこたつに収まっている。今もそうだ。週末で予定も無いのをいいことに、朝起きてご飯を食べてからはこの人工的な陽だまりに浸っている。
 みかんを時々口に運びながら本を読んでいると、ことりと硬質な音がした。目を上げると無咎がの前に湯呑を置いてくれていた。

「ありがと!」
「ああ」

 お茶を淹れてくれた無咎は自分の湯呑も机に置くと、腰を下ろしてこたつの中へと足を入れた。

「ふふ、足すっごくはみ出てる」

 2m近い無咎の脚は永遠に続くかと思うほどに長い。足の先はこたつの端から大胆にはみ出て、向かいに座るの隣に並んでいる。裸足の足は身長に比例してびっくりするくらいに大きい。玄関にと彼の靴が並んでいるのを見るのが好きだ。お互い成人した大人のはずなのに子供と大人の靴ぐらいに違い、なんだか面白いのだ。

「足先冷えちゃわない? あぐらかけば全部入るのに」
「そこまで。それにあぐらを組んだらおまえが足で悪さをしてきた時に反撃できないだろう」

 無咎はからかうように言ってを見た。
 こういう時は同じ空間に居ても互いに自分の好きなことをしているけれど、時々ちょっと悪戯心が出て無咎の足を自分の足先でくすぐったり、軽く、ごく軽く蹴ったりするのだ。ちょっぴりお行儀が悪いその行動に、無咎は反応する時と、ちらりと見た後何事もなかったようにする時が半々くらい。こういうのは意外と必安の方が構ってくれるのだ。けれど、無咎もこちらを一瞥した後にそのうつくしい口元にかすかな笑みをのぼらせる。はどちらの優しさも大好きだった。
 布団の端から晒された、無防備な足の裏を指先でそっとくすぐる。今日はどっちかな。

「っ!」

 びくりと震え、足先がさっと布団の中に隠れる。驚いた黒猫みたいな動きにくすくす笑うと無咎はきっとを見た。

「やったな……!」

 ぐい、と少しだけ冷えた温度が太ももに触れる。

「つめた! やっぱり足冷えてるじゃん!」
「仕置きにはちょうどいい」

 珍しく子供みたいに弾んだ調子で言う無咎はひどく楽しそうだ。今日は構ってくれる日だったみたい。必安が返ってきたらどっちの味方に付いてくれるだろうか、なんて考えながら笑い声をあげた。