19. 白い息

「前から思っていたのだけれどね、君たちサバイバーはやけに薄着じゃないかい?」

 マッチが開始されたばかりで、物陰に隠れていた時。急に声をかけられ悲鳴を上げそうになるのを必死に抑えて振り返ると、整った顔立ちの青年が立っていた。
腕を組んだ彼は腰を抜かしそうなを見ても何も行動を起こさず、じっとこちらを見ている。

「ジョ、ジョゼフさん……!」
「心配しなくても殴らないよ。今日はなんだかそんな気分だ」

 息も絶え絶えになんとか名前を口にするとジョゼフさん──ハンターの写真家は、友好的意志を示すように両腕を開いてみせた。まだ信用しきれず少し後ずさる。確かに、ハンターが時々気紛れに達を狩ることを選ばず戯れに共に遊ぶことを選択することもある。けれど、簡単に信用してはいけない。結局のところたちはどこまでも狩られる側で、彼らはどこまでも捕食者なのだから。

 それより、どうしてのいる場所が分かったのだろう。これでも足音は立てないで、じっと動かずにいたのに。疑問がそのまま顔に出ていたのか、ジョゼフさんはの心を読んだようにあっさりと答えを口にした。

「息さ。君の呼吸の水蒸気が白くなって、物陰から見えていた」

言われて、咄嗟にはっと口を押さえる。吐き出される呼吸はジョゼフさんの言う通り白い息になって空気中を蠢き儚く消えていた。多分隠れていたのが端すぎたんだろう。「まあ、それはそれとして」と続け、彼は首を振った。

「私はね、女性が肌を出すのはあまり良くないと前から思っていたんだ。ましてやこんな寒い季節に!」
「……そ、そうですか?」

 急な言葉にぽかんとする。たちがマッチで身につける衣装は全て荘園の主から与えられるものだ。だから、特に何も考えず与えられるまま着ているのだけれど。もちろんジョゼフさんもそれをわかっているはずだ。だから今更な気がして、少し驚く。

「こんな秩序も法律も何も無い地で何を正気ぶったことを、と思われるかもしれないがね。君がかそけき呼吸を立ち上らせているのを見たら、ますますそう感じてしまった」

 言われて気づく。ジョゼフさんの息は、と違って白くない。そもそも彼は、呼吸をしているのだろうか。ざわりと心が波立つのを気づいているのか、いないのか、彼はなおも白い息を吐き出すを見つめた。

「これを」

 サーベルを地面に突き刺して、上着──ジュストコールを脱ぎ、ジョゼフさんはそれをの肩にかけた。驚きながらも被されたそれを羽織ると、寒さが少しだけマシになる。

「さあお嬢さん、暗号機へと連れて行ってあげよう。君が良ければ、ゲートまでも」

 迷った挙句差し出された手を取ると、ジョゼフさんは優雅に微笑んだ。
 たまには、こんなマッチもありかもしれない。