24. クリスマス・イブ
「……あの、ジョゼフさん」
「なんだい?」
「非常に今更なのですが、何故こんな状況になっているのか教えてほしいんですけど」
夕飯のための買い物をしてフラットに戻ろうとしたら、フランス人のお金持ちに拉致されて晩餐を出されている。あらすじ終わり。改めて文章にすると訳が分からない。
ナプキンで上品に口を拭ったジョゼフさんは、当たり前のように
の疑問に対する答えをくれた。
「君の国では、クリスマス・イブは恋人同士が会う日だと知ってね。せっかくだから、私も恋人の国の作法に従ってみようかと」
「なるほど……流石ジョゼフさん、異国の文化にも詳しいんですね」
「ありがとう」
優雅な笑みは絵画のように美しい。けれど、その美しさに惑わされてはいけない。
「でも一ついいですか?」
「なんだい?」
「
とジョゼフさんは恋人同士ではありませんよね?」
ジョゼフさんの微笑みは一層深まって、対照的に
の顔は渋くなる。この人、すべて笑顔でごまかすつもりではないだろうな。
はただの、イギリスに滞在している日本人留学生だ。今は大学が冬休みなので図書館に行ったり、フラットにこもって勉強したりしている。とにかく本来、一代前にフランスからイギリスに移り住んできた、祖先に貴族の血を引く男性と知り合うような立場の女ではない。けれど何がどうしたか
とジョゼフさんは出会い、何故か気に入られ、そして今はこうして馬鹿みたいに大きな郊外のお屋敷にお招きされている。自由意志は無しで。
少しの間無言でにっこりと笑っていたジョゼフさんは、
の切実な表情に根負けしたのか少しだけ笑みを薄くして口を開いた。
「逆に考えてみよう。クリスマス・イブの夜に会っているのだから、私達は恋人だということにならないかい?」
絶句した。そんな逆説ある? 横暴過ぎない? ならないかい?って、ならなくない? ならないよ。ならないですよ。
捲し立てたかったのにジョゼフさんは
が口を開くより前にすっと手を上げた。
「そろそろデザートの時間だね。持ってこさせよう。甘いデセールを食べれば、君も素直な気分になるかもしれない」
やけに含みのある言い方だ。思わず半目になる。
「……変なもの入れたりしてないですよね?」
「……」
「だから無言で笑うの止めてくださいよ! 怖いんですって!」
ああ、無事にクリスマスを迎えることはできるのだろうか。