降らすのは光

 一昨日も昨日も今日も雨。特に今日の雨は、じっとしてると寒く感じるのに少し動くといやな汗をかいてしまうような厄介な雨だ。
 梅雨になると洗濯物が中々乾かなくて困る。湿気のせいで皆そこまで暑くなくても汗をたくさんかくから、洗い物はいつもより多い。だけど同時にその湿気のせいで洗濯物はいつまでたっても生乾き。洗い終えたタオルやビブスをフル稼働させてる乾燥機にぶち込んではいるけど、それでも嫌な湿気は中々消えない。 暑いのも疲れちゃうけど、やっぱり梅雨は早く終わってほしいな。
 そんなことを思いながら乾燥機の中で回る洗濯物を眺めていた。

「おっ、いたいた! 、もうすぐ休憩終わりだぞ!」

 あと少しで終わるというところで、乾燥機の低い稼働音に被せるように元気な声が洗濯室に響いた。灰色のツンツン髪の持ち主が入口からこちらを覗き込んでいる。我らが主将、木兎だ。
 木兎は首にかけたタオルで頭をガシガシと拭きながら、入口から歩いてきての隣に並んだ。

「ごめんごめん、あとちょっとで行くね」
「もう終わる?」
「うん、あと5分」

 首を傾げながらこっちを見てくる木兎に笑って返す。木兎は背が高いし顔だって男らしいと思うけど、ところどころこういう仕草が妙にかわいい。大男のくせに妙に母性をくすぐる奴だ。そっか、と頷く木兎にそんなことを思った。
 ゴウンゴウンと鳴り響く乾燥機をさっきまでみたいに見つめていると横から視線を感じる。こちらを見ている木兎に首を傾げた。

「もう終わるし先に体育館行ってて大丈夫だよ」

 確かに洗濯物の量は多いけど、別に重いものなわけじゃない。いつもやってることだし一人でなんとかなる。そう言うと、木兎は首を横に振った。

「もう終わるなら待ってるって!」
「そう? ありがと」

 まあ確かに乾燥機の残り時間はもうあと少しだし今行こうが数分待とうがあまり変わらないかもしれない。納得して、徐々に乾燥機の動きが遅くなっていくのを二人で見守った。

 数分後。ピーッと言う高い音と共に完全に乾燥機の稼働が停止した。
 ロックの外れた蓋を開けると暖かい空気が流れ出してきて思わず目を細める。乾いてふわふわなタオルとその他もろもろを取り出して、床に置いてあるカゴの中に詰め込んだ。もう少し時間があったらここで畳んだけど、もう休憩が終わるなら体育館に行ってからの方がいいだろう。あっちなら雪絵とかおりも手伝ってくれるだろうし。(今は雪絵はドリンク作り、かおりは練習の記録をつけてるはずだ)
 重くなった洗濯物カゴを抱えて立ち上がって、後ろで待ってくれていた木兎を振り返った。

「お待たせ。待たせて」

 ごめんね、と続けようとしたところで頭にごくごく軽い衝撃が走った。

「お疲れ!」

 木兎がの頭の上に手を乗せたのだ。
 金色の瞳をほんの少し細めて笑いかけられる。大きくて暖かい手はそのまま軽く髪の毛をかき回して、頭から離れた。
 俺が持つ、との言葉とともに、びっくりして固まっているの手からカゴが無くなる。元気に「行くぞ!」と宣言して入口の方を向く木兎の背中を見て、ようやくゆるゆると思考が流れ出した。
 重さを失って下がった片手でじわじわと赤くなる顔を覆う。座り込んで頭を抱えたい気分だった。

 ほんっと、ずるい。

 いつもワガママな末っ子のくせに時々どうしようもなくかっこよくて、耐性の無いの心臓を腹が立つぐらいに暴れさせる。ずるい、ずるい男だ。そんなんだから、見込みのない想いをいつまでも諦められないのだ。

「好きにならないわけじゃん」

 思わず、零れ落ちるようにそんな言葉が口をついて出た。
 ため息をついて一呼吸置いた後に、はっと正気に戻った。本人の前で一体は何を口に出して言っているんだ。
 音がするぐらいの勢いで顔を上げると、前に立っている木兎がぽかんと口を開けてこちらを振り返っているのが目に入った。心底驚いたような顔で見つめる目に一気に体温が上がる。

「待ってちょっと待って今のなしだから、なしだから忘れて…!」

 さっき以上に顔に一気に熱がのぼって、同時に頭はいつもの倍以上の速度で回る。、とんでもないことを言ってしまった。あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆って視界をシャットする。こんな形で知られるつもりなんてなかったのに。涙が出そうだ。
 どさりと何かが床に落ちる音がして、なんだろうと思う前に両手を掴まれた。誰が掴んだかなんて、分かり切っている。さっき頭を撫でたのと同じ体温を直に感じて、思わず体が跳ねた。
 無理やり顔の前から手をどかして、目の前に立った木兎はの顔を覗き込んだ。

「そんな顔しといて今のなし、はねーだろ」
「っ!」
「好きなんだな、俺のこと。そうだろ?」

 ほんの少し滲んだ視界に映った木兎はものすごく嬉しそうな顔をしていて。まさか、なんて希望を持ちそうになるけど、心に残る不安が簡単にはの頭を縦に振らせない。
 おろおろと視線をさまよわせるに、木兎はさっきよりもっとはっきりと笑った。

「あーもう、かわいすぎ」

 嬉しそうに呟く彼は猛禽類の捕食者だ。