心配ご無用
三学期になってから学校に行く回数がめっきり減った。
まあ二学期の時からちょっと少なくなってたけれど、三学期に入ってからは週三でしかも午前で終了。同学年の皆は大体予備校で、家で、図書館で猛勉強してるんだろうけれど、は夏にAOで受かったのでもう勉強する必要がない。正直めっちゃ暇である。ので、最近は恐ろしいほど規則正しい生活を送っている。詳しく言うと、6時半に起きて10時半に寝ている。小学生か。むしろ老人か。
友達と遊びたくても前述の通り皆勉強してるので誘えない。それどころかなんか仲間内で一人だけ受験が終わってるのが申し訳なくて、連絡とるのもちょっと遠慮してるぐらいだ。寂しい。あまりにもやることがなくて、最近は買い物によく行くようになった。前はそこまで服装に気を使ってなかったしパンツばっかり履いていたけれど、今では休日でもスカートをはくようになった。今日もスカート。あと家にいるときに雑誌を読みまくっていたら前よりちょっと女らしくなった。多分。化粧もちょっとうまくなったかもしれない。
そんなかんじで今日も暇だったのでレンタルショップに借りていたDVDを返しにいったところ、思いがけない人物に会った。
「あれ、荒北くんと新開くんだ」
スポーツ関係のDVD のコーナーに自転車部……いや元か、元自転車部の二人がいた。
「あれ、久しぶり」
近づいたら新開くんが気づいて手を振ってくれた。
「こんにちはー」
「なにか借りに来たの?」
「ううん、返却。二人は自転車関係のDVD?」
「まあね。勉強の息抜きに」
相変わらず爽やかな笑顔。
新開くんとは一年生の時に同じクラスで、学年が変わっても廊下で会ったりしたときは喋っていたりした。なんだかちょっと掴み所がなかったりもするけど、とてもいい人だ。
そういえば新開くんと荒北くんは寮住みなんだっけ。同じ(元)自転車部なら福富くんと東堂くんも寮住みだった気がしたけど、今は一緒にいないみたいだ。そう考えていると、荒北くんが黙ったままこっちをじーっと見ているのに気づいた。
「荒北くんもこんにちは」
「……オウ」
どこか驚いたように固まった後、歯切れの悪い返事をして荒北くんは目をそらした。どうしたんだろう。そのままかと思ったら、今度はちらちらとこっちを見る。なんなのか。
その様子を見てニッと笑った新開くんは、荒北くんの肩をぽんと叩いた。
「オレは会計してくるからおめさんはここで待ってな」
「あっオイ新開テメエ!」
焦ったように呼ぶ声に背を向けたままひらひらと手を振って、新開くんはレジの方へ歩いていった。
……今の荒北くんの焦り具合はどう考えてもと二人きりになるのを嫌がっていた。荒北くんとは二年生の時に同じクラスでわりと仲よくしていたと思うんだけど、の勝手な勘違いだったのかな……ちょっとショックだ。表現するなら中々なつかない猫って感じで最初はそっけなかったのが、次第にあっちから喋りかけてくれるようになって嬉しかったんだけど。
「あのボケナス変な気回しやがって……」
ぶつぶつと何か呟きながら頭をかき、荒北くんはを見た。やっぱりどこか気まずそうだ。
「あー……久しぶり、だナ」
「そうだねー。最近学校全然ないし」
休日に二人で遊ぶほど仲が良かったわけじゃない。ただでさえ学校にいくことが少ないしクラスが違うから、会うのは本当に久しぶりな感じがする。
「チャンは休日とか何してんのォ?」
「んー、は受験終わっちゃったからねえ。予備校も行ってないし正直暇してるよ」
「フーン……」
なぜかどこか納得していないような返事。なんだろう、今の答えのどこに荒北くんの機嫌を悪くするような要素があったんだろう。
「つーかチャンさァ、」
「うん?」
「彼氏でもできたア?」
「……え?」
口をへの字に曲げて、荒北くんの視線は固まるの頭からつま先まで鋭く行き来した。
「……一体なんでそう思ったのか知らないけど、残念ながらできてないよ」
「そうか、そりゃよかった」
よく分からないままとりあえずそう返すと、荒北くんの機嫌は目に見えて上昇した。
……ねえ荒北くん、そういうこと聞くって、そういう返事返すって、そういうことだって思っていいのかな。新開くんが二人きりにさせたのもそういうことだって。
そんな心を読んだのかどうか、荒北くんはひどく楽しそうに笑っての肩に手をのせた。
「その服、カワイイな」