似たもの同士
向かいに座る女は、痩身のどこにそんな量が入っていくのだろうかと思うような勢いで皿に盛られた食事を吸い込んでいる。反対にアイスティーだけを頼んでいた私は、ちびちびとロンググラスに入った中身を減らしていた。
「で、話って何だよ」
私が奢る予定のスパゲッティを半分以上たいらげてから、緋雪はようやくそう口にした。
「……緋雪の相棒の美原君いるじゃん」
「多福がどうした?」
「あの~本当に私欲で申し訳ないんだけどさ、美原君って彼女いる?」
新たに口にしていたスパゲッティを頬に詰め込んだまま、緋雪は私をまじまじと見つめた。まん丸の瞳が鋭く整った顔立ちを柔和に崩す。
「ごめん、自分で聞くべきだよね。でもどうしても怖くて……」
勢いよく頭を下げたけれど、特に返事は無い。少しの間を置いてからリスのようにぱんぱんに詰め込んだ麺をごくりと呑み込んで、緋雪はようやく口を開いた。
「お前多福のこと好きだったのか? いつからだよ」
緋雪とはもう長い。でも美原君と話したことはあまりなくて、緋雪の相棒としてしか知らなかった。彼女の疑問はもっともだ。
「この前緋雪と美原君と一緒に組んだ任務あったじゃん? あの時結構二人で待機してる時間長かったから話して……気が合うな、って思って。任務終わりにメアド交換してメールも結構してるんだけど、」
「結構進んでんじゃねーか」
「この前本部で偶然会ったから二人でご飯行って、そのときもすごく楽しくて好きになっちゃって……」
「おいもううち必要ねーだろ」
緋雪は呆れた顔で私を見た。
「二人で飯まで食ってんなら自分で聞け!」
「だって~! いるって言われたらめちゃくちゃ分かりやすく落ち込んで気使わせちゃうもん!!」
まだちゃんと話すようになって日は浅いけれど、結構本気で好きになってしまっている。適当な相槌を打ってごまかせる気がしないのだ。
最初は緋雪のストッパーになっててすごいな~くらいの気持ちだったんだけれど。話せば話すほどに優しさだとか、面倒見の良いところだとか、落ち着いていているけど意外とノリの良い所もあったりする部分だとか、惹かれる要素しかないと思い知らされた。あと普通にかっこいい。元からちょっと露出多いな、と思ってた格好なんて、好きになってからは刺激が強すぎて直視できなくなっている。別に力士を性的な目で見た事なんて無かったのに。
「……ま、でも見る目はあるな」
満更でもなさそうなトーン。緋雪は少し面白そうに私を見ていた。
「あいつは良い奴だ。お前が惚れんのも分かる」
「だよね!?」
緋雪の方が私なんかと比べてよっぽど付き合いが長いわけだし、美原君の良さなんてもちろんよく分かっているはずだ。そこまで考えた所で急に不安になった。
「えっ、てか緋雪、美原君と付き合ってないよね!?」
二人の距離感に親しくとも男女的なものは感じていなかったからこそ今日相談しようと思っていたのだけれど、二人とも完全に公私を分けるタイプの立派な人間なだけかもしれない。どっちもそういう所、しっかりしてそうだし。
「付き合ってねーよ!」
前のめりになった私の眉間を小突いて、緋雪はまた一口スパゲッティを口に──しようとしたところで、動きを止めた。フォークを置いて、ポケットからケータイを取り出す。振動するそれにはたった今メールが届いたようだった。
ぱかりとそれを開いてゆっくりと内容を確認した緋雪は、意味ありげに私を見てからまたケータイをしまった。
「スパゲッティ代、無駄になったな」
「え、どういうこと」
「多福からのメールだった」
「え!?」
緋雪はまたフォークを手にしながら笑い、スパゲッティを頬張ろうと大きく口を開いた。
「今日お前に会うって話してたからな。彼氏いるか聞いてほしいってよ」