眉間の皺すら愛しい

 今日がガオランさんの誕生日ということはつまり、あと二週間と少しで一年が終わるということ。街路樹はライトアップされ、そこら中にクリスマスツリーが立ち並び、既に年末年始セールの予告が出始めた。社会人なので、よく知っている。この二週間はほぼ一瞬と同義だ。
 そんな忙しい時期だけれど、幸運なことにガオランさんもも無事一日予定を空けることができた。恋人の誕生日に丸一日一緒に過ごせるのはやっぱり嬉しい。相手の誕生日なのにの方が浮き足立っているかも、なんて思いながら駅で落ち合ったガオランさんは、いつも通りイヤーマフまで付けた完全防寒仕様だった。常夏の国出身の彼にこの寒さは耐えるだろう。特に今日は風が強い。

「お誕生日おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう」

 誕生日を祝う言葉には彼らしく簡潔な礼が返ってくる。けれどその言葉のトーンはいつもより柔らかくて、八の字眉の下の目は穏やかに細められていた。

「めでたい日ですからね! ガオランさんのお願い、なんでも聞きますよ」

 一応、今日はがもてなす側として一日のプランを立てている。予定は一緒に考えたものだしこれからどうするかも共有してあるけれど、が案内するのが筋だろう。最初の目的地に向かうため一歩踏み出した。

「わっ、と」

 少しも進まないうちに後ろから急に引っ張られて歩みを止める。振り返って目線を下げると、大きな手袋をつけた両手がの右手を包み込んでいた。当たり前だがガオランさんの両手だ。
 何か忘れ物でもしていることに気づいたのだろうか。首を傾げて言外に尋ねると、ガオランさんは何故か目を逸らした。

「……寒いからな」

 はて、と思いつつ目を合わせてくれない彼の顔をじっと見つめた。寒いから、なんなのだろう。
 首を傾げたままでいるを気にせず、ガオランさんは何事もなかったかのように手を片方だけに繋ぎ直して横に立った。

「行くんじゃないのか?」
「えっ、はい」

 なんだかが引き止めたみたいになっている。疑問符が消えないながらもまた歩き出した。
 ガオランさんが外で手を繋ぐなんて珍しい。彼は決して淡泊な人ではないが、だからといって衆目のある所でこういった触れ合いをすることは滅多にない。急にどうしたのだろうか。

「……あ、そういうこと!?」

 繋がったままの手をしげしげと見つめながら十歩ほど進んだ所で、ようやくさっきの言葉の意味が分かった。寒いから、ってそういう?
 正解か教えてほしくて見上げても、まだ彼は目を逸らしたままでいる。

「手、寒いですか?」
「……」
「ねえ」
「……寒い」

 だからといって、お互い手袋の上から手を繋いだって何も変わらないだろうに。ガオランさんも誕生日だから、珍しくくっつきたい気分なんだろうか。かわいい。

「前を見ろ。通行人にぶつかるぞ」

 仏頂面をいつもより更に近寄りがたいものにして、ガオランさんは低い声で言った。
 ニヤニヤしながら顔を覗き込むと頑なに目を合わせず、それでも彼はしっかりとこちらの手を握っている。