よく知る二人が話しているのに遠くから気づいたから、声をかけようと思ったのに。
「なんだかんだ言って、モテると思うんですよね……」
「そうですかねぇ」
「強いし。なのに気さくだし、優しいし」
「それは確かにそうですね」
大久保は、金田と話し込む見知った女の後ろ姿に少し離れたところで立ち尽くした。
これ、もしかせんでも好きな子が好きな男の話しとるやつ?
え? 俺結構ええ感じに距離縮めてたと思てたんやけど。もしかして空回りしてたん? あんなに二人でデート行ったのに?
ちゅーか俺オフの日大体ちゃんに会うてたのに、ちゃんは他にも誰かと会うてたんか? 平日働いとるのに忙しすぎやろ。時間の使い方上手すぎひん? スキマ時間上手に使うタイプ? もしかして俺と会う方がスキマ時間やった?
まとまらない思考があちらこちらへ飛びながらグルグル回る。焦るな、と己に言い聞かせながら大久保は一つ大きく息をついた。
相手が金田と彼女の共通の知人ならば、ほぼ確実に拳願会の関係者だろう。ならば自分も知っている人間のはずだ。そもそも金田に相談しているのなら、きっと彼と親しい人物なのかも。そう考えを巡らせる。
金田のダチでモテるって言うたら誰や、氷室か? ちゃん、面識あるしな。アイツ強いしな。やっぱり氷室なんか。結局いつも女の子は氷室に行くんか。
「そもそもあの人、顔立ちは整ってると思ってるんですよね、私は」
氷室やん。もうそんなん、氷室で確定やん。
大久保はその場で膝をつきそうになるのをなんとか堪えた。
「あんまり服のセンスは合わないですけど」
ちょい待ち、もしかして二階堂なんか? いやでもあれが「あんまり」程度はないか。せやけどちゃん優しいからな……好きな奴相手やったらあんまり程度で済ませてる可能性もあるか。今はそんな優しさですら胸に刺さる……アカン、もう知りたないわ!
「何コソコソしてんだよ」
「おう、モテる男の登場かい……」
後ろから誰かが近づいてきているのは気づいていたから、やってきた氷室に話しかけられても驚きもせず、ガクリと項垂れたまま大久保は答えた。
「あっちで話してんのは金田とちゃんか」
金田との声は聞こえる距離の曲がり角に大久保と二人、身を隠したまま会話を盗み聞きした氷室は、なんとなく状況を掴んだようだった。
あまり趣味の良くないことをしている自覚もあるし、これ以上聞くのも怖い。いいな、と思っていたどころではなく、もう付き合えるとすら思っていた子の恋愛トークなのだ。合コンで上手くいかなかったのとは訳が違う。だからといって今からあの二人に近づいて話しかける気力もない。これで「大久保さんも相談に乗ってください」なんて言われたら膝から崩れ落ちそうだから。そう思い自身の耳を覆う大久保とは裏腹に、氷室は二人の会話を聞き続けていた。大の男が子供のように耳を塞ぐのをやれやれといった顔で見ながら、注意はの語る内容に向けている。
「……ちゃん、相当相手のこと好きだな。相談というよりほぼ好きな所の告白じゃねえか」
氷室が独りごちた通り、廊下の先の二人はがひたすら喋り、金田はただただ聞き役に回っていた。丁度良いところで相槌を打つだけ。
「最近はよく遊んでますけど、素敵な人だから……誰かに取られないかって心配なんです」
「大丈夫だと思いますけどねえ」
それでもきちんと話は聞いており、要所要所での言葉は的確なので、あまりは気にしていなさそうだった。
こんなにもに愛されている、幸運な男は誰なのか。それを知るべく金田と同じようにの語る意中の男について聞く内、氷室は段々と表情を変えていった。興味深そうなものから、ニヤついたものに。
「おい、大久保、おい」
元気のない隣の男の肩を揺さぶり、のいる方を指差して彼女の声を聞くように促す。それでも耳を塞いだまま、大久保はヒソヒソと氷室に聞いた。
「誰か分かったんか?」
「手外せ、聞こえねえだろ」
是の返事が来る前に、氷室は無理矢理耳から手を剥がそうと腕を伸ばした。抵抗する間もなく、久方ぶりに外界の音を捉えた大久保の耳にのうわずった声が届く。
「坊主なのにあんなかっこいいのって、すごいことですよ!」
「!?」
驚愕に大久保が目を見開くのに、氷室は笑いの隠せない顔で彼を見た。
お前の話だよ