質量に比例するキュートネス

「あ、ミノルさんだ!」

 午後19時のニュース。取材されている片原総裁の後ろに、気配を消してミノルさんと王森さんが佇んでいた。といっても二人とも図体が大きいので、通常のニュースでも「護衛です」感は抑えきれていない。裏社会でのイベント時との違いは威圧感くらいだろうか。それでもきっと、もしインタビュー中に誰かが不審な動きをしたらあっという間に恐ろしいほどの気迫を纏って制圧するんだろう。

「この前ミノルさん達に『大日本銀行職員』ってテロップ付いてたけど、こんなガタイのいい行員って何者だよってテレビ見た人絶対思ったよね」

 の言葉に、ミノルさんは画面に映っている自分を見つつ、また一口ご飯を口元へと運んだ。

「まあ、護衛がメインとはいえ一応日銀に籍置いてるから嘘じゃねえがな。秘書みたいなもんだし、かなり昔に秘書検定も受けたぞ」
「え、そうなんだ! 知らなかった。秘書検定って面接あるの?」
「準一級と一級はある」
「へえ~」

 この言い方だと恐らく準一級か一級を取っているんだろう。前から思ってたけど、根が真面目だなあ。どう見ても明らかに秘書っぽくないミノルさんが検定を受験しに来たのを見た受付の人の気持ちを考えておかしくなった。会場を間違えてるんじゃないかと思われそうだ。

「確かにミノルさん、後進育成もしてるもんね。そういうスキル、実際に役立ちそう」

 秘書業務って、単純に上司──ミノルさんの場合は片原総裁──のサポートをするだけでなく、部下や全体的な周りの調整が必要な、重要かつ大変な仕事だ。

 片原総裁の率いる護衛者達の数は千を優に超している。ミノルさんは総裁の護衛や自分自身の鍛錬で忙しいから全員を見られるわけではないだろうけれど、ごく稀に育成途中の新人や中堅の護衛者達について名前を出さずに話してくれるから、結構気にかけているんだろうとは思っていた。

「いつも持ってるメモだって護衛者達のこと書いてるんでしょ?」

 何気ない質問に、ミノルさんは曖昧に頷いた。

「あれはあくまで一時のメモ用だがな。後でExcelにまとめてる」
「えっ、情報Excel管理してるの!?」

 衝撃の事実。ミノルさんが別に機械音痴でないのは知っていたけれど、だからといって普通の会社員みたいに色んなデータをパソコン上で管理しているとは思っていなかったのだ。の驚いた様子に、彼は不服そうに眉を顰めた。元から強面な顔がいつもより更に怖くなる。怖くて格好いい。

「なんだその意外そうな顔。俺だってExcelくらい使うし、単純なマクロくらいなら組める」

 更なる衝撃。は箸を置いて、向かいに座るミノルさんを見つめてしまった。

「ミノルさんマクロ組めるの!?」
「そんなに複雑じゃなきゃな。VBAまで行くとダメだが」

 自分の取ったメモを見ながらパソコンで開いたExcelに情報を入力していくミノルさん。呆けながらもその姿を想像して、は空になった右手で胸元を押さえてゆっくりと俯いた。

「か、かわいい~……」
「なんでだよ」

 心底からの呟きには間髪入れずに鋭いツッコミが入った。

「今の話のどこに“かわいい”があったんだ」
「いや、ミノルさんが体丸めてキーボード打ってる所想像したらかわいくて」
「何を言ってんだ」

 ミノルさんは呆れたような顔をしてこちらを見るけれど、まったく訂正する気はなかった。小山のような背を屈めて、小さな法人用ノートパソコンへと入力する207cmの大男。そんなのかわいいに決まってる。
 画面が遠くて、パソコンに覆い被さるみたいになりそう。こんな大きな手で、ちゃんと一つ一つのキーを押せてるんだろうか。一度に二つキーを押しちゃったりしてないかな。それとも外付けのキーボードを使ってるのかな。ミノルさんは家に仕事用のパソコンを持って帰らない(というか今の今まで業務用パソコンを持っていると知らなかった)から、想像は尽きない。今度王森さんに、ミノルさんがオフィスでお仕事してる所の写真をこっそり撮ってほしいって頼もうかな。あの人、意外とノリがいいからOKしてくれそうだ。
 本人にバレたら怒られそうなことを思いつつ、はまたテレビに目をやった。もうミノルさんも片原総裁も、王森さんも映っていない。話している間に次のニュースに映っていた。

「せめて格好いいにしてくれ」
「格好いいはいつも思ってるからなあ」
「……」

 ぼそりと言われた呟きに素直な言葉を返すと、ミノルさんは黙りこくった。あ、照れてる。

「でも実際、めちゃくちゃ強いのにオフィス業務も余裕でこなせるの格好いいなぁ。ミノルさん、文武両道で格好いいよ」

 が続けるのに、ミノルさんは更に渋い顔をした。知らない人が見たら泣き出しそうなくらい怖い顔でこっちを見て、低い声で唸る。

「……早く食え」
「はあい」

 上機嫌で返事をして、また箸を持った。抑えきれずにニヤニヤするから目を逸らして、ミノルさんもまたご飯を食べ始める。ほんの少しだけ耳が赤くなっているのに気づいて、とうとうは喉の奥で笑いを押し殺した。
 やっぱりミノルさんってかわいいなあ。