サプライズは得意です
「さっすが、今年も大漁だね」
机の茶の色を隠すどころか、今にも雪崩を起こして崩れそうな淡い色の包みの山を見て感心したように呟く。そのまま隣の席の椅子を引いて座り、はのんびりと笑った。
「新開は本当にモテるねえ」
「いやあ……」
苦笑して頭に手をやるのと同時にまた自分の名を呼ぶ声を聞いて、新開は席から立ち上がり教室の戸に向かった。
今日は新開達にとって、高校生活最後のバレンタインだ。
新開隼人の場合
「なんか立派な箱だな……どっか高い店のか?」
先程手渡された小さな包みの中から更にもう一回り小さな箱を取り出し、新開は矯めつ眇めつして見ていた。落ち着いたカーマインの箱に純白のリボン。決して激しく主張はしていないが、上品で洗練されている。一目で高級なものであることが分かった。
「あっ知ってる、これ駅前のお店のだよ。いつもながーい行列できてるとこ」
「あーあの水色の看板のところか! 一回食べてみたかったんだ」
笑って言いながらまた袋の中に箱をしまう新開には首を傾げた。
「あれ、食べないの」
「寮に帰って冷蔵庫で冷やしてからね。教室暖房で暖かいからちょっとチョコも常温になってそうだろ」
「なるほど」
鞄の中から持ち手のついた紙袋を取り出しドサドサと机の上のチョコをその中に入れていく様に、納得したようには頷いた。確かに中途半端な硬さと温度のまま食べるよりはそちらの方が美味しいだろう。
薄っぺらい状態からパンパンに膨れあがった紙袋を机の横に下げ、新開はまた自分の鞄の中をゴソゴソと漁った。少しして出された手に握られているのはいつもの補給食だ。
「でも腹は減ったからパワーバー食べる」
「ああ、いつも食べてるやつね」
包みの端を切って食べ始める新開を見て、は先程のようにまた首を傾げた。
「美味しい? ……って愚問だったね、美味しくなきゃいつも食べないもんね」
自分で答えを出してうんうんと頷くを新開は目を細めて見つめた。彼女と一緒にいると、どこまでも穏やかな気持ちでいられる。
「さんも、一本食べる? オレたくさん持ってきてるからさ。味は保証するよ」
鞄を指差すと、は嬉しそうに顔を輝かせた。
「いいの? 実は前からどんな味なのかなーって興味あったんだ」
形だけの遠慮をしないところも、素直に思ったことを言うところも、ふにゃりとした笑顔も。全て、すべて好きだ。つられるように新開も笑って、再度鞄の中に手をつっこんだ。
「オレいつもフレーバー2つ持ってきてるんだけどさ、どっちがいい? バナナと──」
そこまで言ってはたと気が付く。今日は、2月14日は何の日だ?つい先程まで散々自分ももらっていたじゃないか。
「──チョコ味」
今日は、バレンタインなのだ。
「うーん、どっちにしようかなあ」
顎に手を当てて悩む姿にさん、と声をかける。
「ごめん、やっぱりチョコ味しかない」
「あれ、そうなの? じゃあチョコをいただきます」
「うん、どうぞ」
ありがとう、と笑って受け取るを抱きしめたくなる衝動を抑え、新開は言葉を続けた。
「ところでさ、バレンタインってそもそもは男が女性にプレゼントを渡す日なんだよな」
「うん?」
「最近じゃ逆チョコとか言うけどさ、逆どころか本当はそっちが元なんだ」
何故こんなことに今の今まで気が付かなかったのだろう。そうだ、相手が来ないのならば、こちらから。
「だからさ、」
おっとりとした態度に柔らかい笑顔が常のの心底驚いたような顔を見て、新開は思わず笑いをこぼした。
「それを食べ終わったら返事をくれるかい」
狙った獲物を逃がす気など鬼には微塵もないのだ。