おとぎ話を書きかえてよ

 シンデレラの話は何か納得がいかない、と言ったらめんどくさい女だと思われるだろうか。
 確かにシンデレラは逆境のなかでも頑張る非常に良い子だけど、王子は彼女がそうして努力してきたことを知らないわけで。お前結局顔で選んだんじゃんって思ってしまうのだ。

「まあ、分からないでもないが」
「でしょ」

 授業後、一緒に部室へと向かう道すがら黙って聞いてくれていた金城は苦笑した。急に思ったことを口に出すに同意の言葉をくれるこの男は相当心が広い。前から知ってたことだけど。

「もっとさ、こう……普段からシンデレラの頑張りを見てた人とくっついてほしかった」
「たとえば?」
「あー……いたか分かんないけどシンデレラと同じように継母の屋敷で下働きしてる下男とか。いないか」
「いないな」

 苦笑が今度こそ普通の笑顔に変わる。
 チャリ部の部室が遠くの方に見えてきて、スカートのポケットに手を突っ込んだ。職員室から取ってきた部室のカギが指先に触れる。

「まぁいんだけど。シンデレラじゃないし。王子とかいないし」
「下男もな」
「そーね」

 は無理やり働かされてるんじゃなく、やりたくてマネージャーをしているし、幹ちゃんというかわいい仲間もいる。隣にいる男を筆頭とした部員たちは継母と姉達みたいに意地悪じゃない。だからシンデレラじゃないし、王子様も必要ないのだ。
 鍵の硬い感触を狭い空間の中でもてあそんで頷くと、なんでか金城は小さく息を吸い込んだ。

「……俺はお前がいつも頑張っているのを知っている」
「は?」
「普段から頑張りを見ている人間がここにいると、そう言っているんだ」

 思わず足を止めると、金城も同じように立ち止まった。見上げた顔はいつもと同じように生真面目で、真っ直ぐにこちらを見つめている。
 ぽかんとした後にゆるゆると言葉が鼓膜から脳まで辿りつく。
 がシンデレラではないなら、結ばれるのも王子ではなく。

「……は、」

 言語中枢を揺らして理解が追いつくと同時に、顔が熱くなるのを感じて、たまらず金城から目を逸らして歩き出した。さっきより大股で。

「バカじゃん。趣味わる」
「そうか?」
「そうだよ」

 突き放したくて早歩きをしているのに隣の坊主頭はさっきと変わりなくちゃんと隣を歩いていて、と違って別に急いでるっぽく見えないのが余計に苛ついた。
 さっきまでに合わせて歩いてたのかよ。当たり前か。コンパスが違い過ぎるわけだし。腹立つ。

「俺はそう思わない」
「意味わかんない。てかなんなの急に、ほんと、」

 悪態を吐いてずんずん進んだ先、辿りついた部室の扉のドアノブをぐいと掴む。勢い込んで引いたのにがくんと身体が引き寄せられて、ようやく鍵を開けるのを忘れていたことに気づいた。血の巡る音が聞こえるぐらいに耳が熱くなる。ふざけんな。死にそう。
 真後ろから聞こえる押し殺した笑い声によっぽど蹴りを入れてやろうかと思いながら、すっかり温まった金属を乱暴に鍵穴に押し込んだ。