かき氷
なんとなく
夏祭りの続き
「あ、かき氷ある! 食べない?」
「いいな」
彼氏である穂刈と夏祭りを満喫する夜。射的や金魚すくいを楽しみつつ夜店の間を歩いていたらかき氷の出店を見つけた。少しはしゃぎながら隣を歩く穂刈の浴衣に包まれたがっしりとした腕を軽く叩く。やっぱり夏祭りはこれを食べないとだろう。反対側の出店を見ていた穂刈がこちらを向くのにかき氷の屋台を指差すと、楽しげに口角が上がった。
「
はレモンにしようかな。穂刈は?」
「メロンにするぞ、オレは」
夏らしいかき氷は人気が高い。他の店より長い列に並んだ後、ようやく
達の番が回ってきた。会話を聞いた屋台のおじさんが四角い氷を手早く機械にセットする。大きな塊が削られてどんどんと小さくなるのをワクワクしながら2人で見守った。
「ん~、おいしい!」
受け取ったかき氷のカップ。ざくざくと氷を混ぜてから口に含むと途端に冷たさが口いっぱいに広がる。チープな甘さのシロップに、ガリガリとした氷らしい触感。ちゃんとした専門店で提供されるもののふわふわとした軽い口触りとはまるで違うけれど、これはこれでとってもおいしい。キーンとした冷たさに思わず目をつぶってから笑顔になった。穂刈も
に続いて自分のメロン味のかき氷を食べ始める。真っ白な氷山にかかる鮮やかな緑が眩しい。そういえばこういうシロップは本当は全て同じ味だけれど、色付けを変えるだけで味まで違うように錯覚させているんだっけ。ん、と穂刈が差し出してくれる緑色の氷の乗ったストロースプーンにぱくりと口を付けながらそんなことを思い出した。
「ありがと」
「うまいだろ、メロンも」
「うん!」
理屈としては知っていても、やっぱり味は違うように感じるのが面白い。お返しに
も自分のレモン味のかき氷をめいっぱい掬って穂刈の口元に差し出す。
よりだいぶ背の高い穂刈が少しだけ体をかがめてストロースプーンの先を咥えるのを見守った。
「なんていうか、出店のかき氷ってこう……氷!って感じだよね」
「それがいいんだよ、祭りのかき氷は」
確かに。氷の粒を頬張りながら穂刈のもっともな言葉に頷いた。祭りの出店特有の、浮かれて楽しくて、そしてどこか安っぽい感じ。それがいいのだ。それだからいいのだ。夏祭りは特にそれが顕著な気がする。色々なものが雑然として、混沌としているお祭りらしい感じ。ずらりと続く赤い提灯に照らされた夜道の少し怪しげな雰囲気に改めてそんなことを思った。
「林檎飴も外せねーな、祭りには。かき氷もいいが」
「あー、いいね!」
まだ氷の山を食べ終わってもいないのに穂刈が少し向こうの方にある林檎飴のお店を指差してそんなことを言うから、思わず
も歓声を上げる。真っ赤で甘い、かわいい林檎飴。なんでこう、お祭り特有のお菓子って見た目から女ごころをくすぐるのだろう。
「食べるか? 後で」
「どうしようかなあ……甘いものだけでお腹いっぱいになっちゃうかも」
「じゃあ分けるか、2人で」
「ナイスアイディア」
半分こならきっと大丈夫だろう。せっかくお祭りに来ているのだから色んな食べ物を楽しみたい。他には何があるかな、なんて考えながらふと目に入った穂刈のかき氷のカップの中身が
のものよりだいぶ少なくなっていて、ちょっと焦る。待たせるのが申し訳なくて食べるペースを速めた。
「あっ、キーンときた……!」
「急がなくていいぞ、別に」
一気に氷を頬張ったせいで襲ってきたアイスクリーム頭痛に思わず顔をしかめる。
の慌てた様子に笑った穂刈は右手に持っていたストロースプーンをかき氷の山に突き刺し、長い指をコツンと
のこめかみに当てた。そのままそこを何度か優しく撫でた後、人差し指は生え際から掬った髪を耳にかける。優しく見つめる視線に頬が熱くなって俯いた。
頭が痛いのに、早くかき氷を食べて熱を冷まさなければ茹ってしまいそうだ。